【報告】第5回 東日本大震災伝承シンポジウムin富岡-福島から考える 伝承の未来- 開催

2023/2/18(土)、富岡町文化交流センター学びの森において、第5回東日本大震災伝承シンポジウム「福島から考える -伝承の未来-」を開催いたしました。
 
※行事の様子は全編、アーカイブ映像(YouTube)でご覧いただくことができます。
※プログラム・登壇者プロフィール資料は、こちらからダウンロードいただけます(約0.9MB)。
 

 

第1部:話題提供

 

 

 

第2部:パネルディスカッション/第3部:総括

 

 

 

●第1部 話題提供「福島における伝承人材育成の取り組み」

第1部では、福島県内で、行政・学校・NPOそれぞれの立場で伝承人材育成に関わる皆さまから、取り組み事例や現状・課題をご発表いただきました。

行政:森合耕一さん(福島県 文化スポーツ局 生涯学習課)
高橋敏哉さん(福島県 教育庁 高校教育課)
学校:南郷市兵さん(ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長)
NPO:青木淑子さん(NPO法人富岡町3・11を語る会 代表理事)


 

●第2部 パネルディスカッション
パートⅠ「学校・地域で伝承の担い手を育むために」

パネルディスカッション・パートⅠでは、3県で「探求学習」「課外活動」「地域活動」などに取り組む実践者の皆さまに、「学校・地域で、多様な伝承の担い手を育むために」というテーマで、必要な仕組みや要素についてご議論いただきました。

登壇者:南郷市兵さん(ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長)
青木淑子さん(NPO法人富岡町3・11を語る会 代表理事)
伊藤聡さん(三陸ひとつなぎ自然学校 代表)
松原久さん(東北大学高度教養教育・学生支援機構 課外・ボランティア活動支援センター)
進行:藤間千尋(3.11メモリアルネットワーク 理事)

◆どのようにきっかけを生み出すか?

今回の登壇者の皆様は、震災や伝承に関心を持った人が、一歩踏み出したり、活動を継続するためのサポートに取り組まれています。議論の中では、「主体性を育むことが、伝承人材育成へつながる」という印象的なお話が紹介されました。

  • 主体性は、学校教育で育てないといけない最も重要な力のひとつであり、伝承活動だけに関わるものではないが、“Will(意思)”と“Need(地域や社会に必要なこと)”を大事にできる仕組みがあれば、自然と、震災のことに関与していくのではないか。(ふたば未来学園・南郷さん)
  • 語り部さんや、被災地域の方たちとの出会いを通した学びが、学生の主体性を生み、伝承への関心につながる。だからこそ、語り部さんとしっかり話すことを大切にしている。(東北大学・松原さん)
  • 徐々に主体性が生まれるような仕掛けが大切。興味・関心を持てるような人や、地域と出会う場を意識的につくっている。(富岡町3・11を語る会・青木さん)
  • 高校生のうち、8割くらいが“機会があれば参加したい”と考えている。夢団(釜石高校の防災活動グループ)は、その受け皿になっている。(三陸ひとつなぎ自然学校・伊藤さん)
◆伝承人材育成の事例

実際に、若者や震災に関心のある方たちの主体的な取り組みにつながった事例について伺いました。
地域や人に出会う場づくりなどの仕掛けを通して、年齢を問わず、「語りたい」「何かを伝えたい」という情熱が人の心を動かし、それが活動への参画のきっかけにつながる、というお話がありました。

  • 語り部さんから、大学生に対して「経験していないみんなだからこそ語れることがある。みんなが語り継いでほしい」という熱いメッセージを受け取ったことをきっかけに、春休みに大川小学校のガイドをやってみようという動きが生まれた。(東北大学・松原さん)
  • ラグビーの試合で夢団(釜石高校の防災活動グループ)の語り部を見た地元の小中学生が、先輩や友人のその姿を見て憧れて、「やってみたい」という良い連鎖が生まれている。(三陸ひとつなぎ自然学校・伊藤さん)
  • 60代を越えた方が「語り部をしたい」と申し出てくださることもある。避難生活が続き、孤立化していく中で、語れなかった思いをそれぞれのタイミングで語り始める。だからこそ、若くない世代の育成にも力を入れるべきだし、大人たちの「語り継いでいきたい」という想いが、若い人を育てることにつながると思う。(富岡町3・11を語る会・青木さん)
◆なぜ「人材育成」に取り組むのか?

最後に、伝承人材の育成に関わり続ける登壇者の皆様から、その背景にある思いを伺いました。語り部さんの高齢化や人手不足等の問題意識と、内側からあふれる熱い情熱が、被災現地での人材育成につながっていることを、伺い知ることができました。

  • 震災伝承を通して、学生が色んな地域や人に出会い、都会と異なる暮らし・仕事に触れて、これからの生き方を揺さぶる機会となる。また、大人のサポートがある環境の学生時代の間に、成功体験を積んでもらい、将来自分が課題だと思うものに働きかけるような大人になってゆけば嬉しい。(東北大学・松原さん)
  • 語り部として活動するということは、自分自身や社会を理解する必要があるし、「自分の思いを届けたい」「人の思いも受け止めたい」という双方向の交流を生みだすということ。それは、語り継ぐ本人にとって、とても幸せなことであると伝えたい。その上で人材を取り込んでいくことが大切。(富岡町3・11を語る会・青木さん)
  • 震災による犠牲は決して繰り返してはいけないが、同時に色んな人のつながりが生まれ、地元の若者もどうにかしようと立ち上がった。そのとき、震災前には感じ得なかった希望を感じたが、大きい災害のような転機がなくても、希望をもって未来を生きられるような社会をつくっていくのが、自分たちの使命であり、一緒に生きていけなかった人たちのためにも必要なこと。(三陸ひとつなぎ自然学校・伊藤さん)
  • 災害後の復興・復旧に大きく影響するため、社会の脆弱性は震災前に解決しないといけないが、釜石には伊藤聡さんがいた。伊藤さんのようになる若者を育てるために、夢団や社会起業部(ふたば未来学園の部活動)が活動をつづけることが重要。そこでの取り組みが将来的に学校のカリキュラムになれば、学校は変わりにくいことを力に変えて継続できる。これからも、能動的市民の育成に取り組んでいきたい。(ふたば未来学園・南郷さん)

●第2部 パネルディスカッション
パートⅡ「わたしたちの次の世代に伝え継ぐために」

パネルディスカッション・パートⅡでは、伝承に取り組む/関心を持つ若い世代の方々にご登壇いただきました。後述する「人生グラフ」も使いながら、それぞれの実感に基づいた活動や想いに触れ、次の世代に伝え継ぐために必要なことについて意見交換しました。

登壇者:畠山歩さん(津田塾大学2年生/福島県富岡町出身)
齊藤幸子さん(宮城教育大学3年生/宮城県仙台市在住)
川崎杏樹さん(いのちをつなぐ未来館 職員/岩手県釜石市出身)
永沼悠斗さん(大川伝承の会、3.11メモリアルネットワーク 理事/宮城県石巻市出身)※オンライン登壇
進行:阿部任(3.11メモリアルネットワーク 職員/宮城県石巻市出身)

◆震災や伝承に関わることとなった初めの一歩

登壇者・司会の5人の方々には、事前に「震災との関わり」について、時系列で、活動量とモチベーションのレベルを整理した「人生グラフ」を作ってきていただき、このセッションの冒頭で、震災や伝承への関わりの軌跡をご紹介いただきました。
一人一人、経験もグラフの形も異なりますが、全体的に、震災後の数年は、活動量・モチベーションともに低い傾向が見られました。「同級生との温度差」「当時向き合えるほどの気持ちの余裕がなかった」など、それぞれの事情がある中、何らかの出会いをきっかけに震災伝承に関わることとなった経緯が共有されました。

  • 震災について“何かしたいけど、どうしたらいいかわからない”人は多いと思う。まず現地に行ってみる、というゼミの方針ではじめて福島を訪問した時、「他人事ではなくなり、ずっとここに関わっていかないといけない」という気持ちになった。(宮城教育大学・齊藤さん)
  • 震災について触れないようにしていたが、双葉郡にふたば未来学園が開校することを知って、帰還困難区域になった地元の問題ついて、“考えてもいいかな”と思い、入学した。授業だけでなく、部活動や探求学習などで地域の課題に触れ、自分の想いを話す機会が増えていった。(津田塾大学・畠山さん)
  • 直後は“語らねば”という想いで取材や講演に出ていたが、高校や大学進学で周囲との温度差に驚き、モチベーションが下がった。大学で、たまたま釜石のフィールドワークされていた先生との出会いから、伝承に触れる機会が増えていった。(いのちをつなぐ未来館・川崎さん)
◆モチベーションを維持するために

それぞれの方法で震災や伝承に向き合ってきた、登壇者の皆さん。被災経験の有無によらず「当事者として考えさせてくれる機会」や、関心・課題意識を共有できる「同世代とのつながり」によって、モチベーション維持・活動継続できた等、ご自身の実感に基づくをお話しいただきました。

  • 福島でお話を伺った方々から、震災という枠にとどまらず、生き方やエネルギーの問題などを考える機会をいただいたことが、モチベーションの維持につながった。(宮城教育大学・齊藤さん)
  • 3.11メモリネットワークの“若者プロジェクト”。自由に自分の気持ちを発表できるようになってからが楽しく、どんどん活動したいという気持ちになり、いろんな活動を共有した。(大川伝承の会、3.11メモリアルネットワーク・永沼さん)
  • 一緒に活動した同年代の仲間の存在は大きい。ちょっと疲れたときに、“あの人が頑張ってくれるから、もう少し頑張ろう”という気持ちになることもあった。(津田塾大学・畠山さん)
◆次の世代に伝え継ぐために、必要なこと

さらに次の世代にバトンを渡すために、わたしたちには、何ができるでしょうか。

  • 職業として伝承活動をしている身としては、まずわたしたちができる限り継続していくことで、前例をつくり続けることが重要。また、今は活動していなくても、語りたいが機会がなかったり「語っている間に辛くなってしまう」など色んな事情を抱える人が一定数いる。できるだけ心の負担を軽くしつつ、伝えたい気持ちを尊重しながら、いつでも語ることのできる場づくりや、話をきいて受け取る人たちの姿勢から安心感のある環境をつくることも必要だと思う。全国の伝承活動に関わっていない人たちにも協力してほしいし、わたしたちから先頭切って生み出していきたい。(いのちをつなぐ未来館・川崎さん)
  • コニュニティをつくったり、活動を実現できたのは、あと一歩を後押ししてくれる大人が身近にいたからこそ。学校現場や地域に、若者を応援してくれる大人の存在が大切だと思う。(津田塾大学・畠山さん)
  • “まずは行ってみようよ”と、周りの人たちを強気に引っ張っていきたい。語ってくださった人たちは、様々なつらい経験や想いがあるはずだが、ありのままに伝えてくれて、押し付けることはなかった。自分も、子どもたちに対して “これどう思う?一緒に考えようよ”と働きかていきけたいと思っている。(宮城教育大学・齊藤さん)
  • 伝承活動を継続できているのは、職場の理解が大きい。若者それぞれが、「どのように続けられているのか」についても発信していきたい。続けることは大変だが、そこにも意義を感じることができたら、これから先も続けられるはず。(大川伝承の会、3.11メモリアルネットワーク・永沼さん)

司会の阿部任さんからも、「わたしたち若者が動き、次の担い手の受け皿を、さらに大きくしていくような働きかけが必要。その受け皿が、特定の場や会社にとどまらず、社会全体に広がってゆけば」とコメントをいただきました。
登壇者からは、自分たちが担っていくという強い意思が伝わり、とても心強く感じました。また同時に、多様な立場や世代の方たちが伝え続けるためには、社会全体としての理解、後押しが大切であることも、再確認することができました。
 

●第3部 総括

話題提供、パネルディスカッションを通して、とても多くの思いと学びを受け取り、伝承や震災学習の価値や可能性を伺い知ることができました。
最後に「総括」として、これまでの議論を振り返り、各登壇者の活動のつながりに触れつつ、これからの伝承人材育成について、まとめのディスカッションを行いました。

登壇者:佐藤翔輔さん(東北大学 災害科学国際研究所 准教授)
神谷未生さん(一般社団法人おらが大槌夢広場 代表理事、3.11メモリアルネットワーク 理事)
進行:武田真一(3.11メモリアルネットワーク 代表理事)

◆伝承や震災学習がもつ価値と、これからの可能性
  • 人材育成が持続可能になるためのポイントを、登壇者の皆さんから教えていただいた。「災害が起きる前」のお話から、「レジリエンス」という最近キーワードを思い浮かべた。「ただ回復するだけではなく、形を変えないといけない」という話まで議論が及んでいる。(東北大学災害科学国際研究所・佐藤さん)
  • パネルディスカッションパートⅠの登壇者が用意したプラットフォームや、震災から学ぶ機会を、パートⅡの登壇者のような若者たちが上手に受け止めてくれているのだと思う。伝承の関わり方が多様になってきており、今後社会変化として見届けたい。(おらが大槌夢広場・神谷さん)
  • 直線的な教訓にとどまらない、「社会をどのようにつくってゆくのか」を考える土台に、震災学習がなり得るという実感を持った。今回、はじめて福島で開いたからこそ生まれた議論であり、前回・前々回にも増して、私たちが震災伝承でなにを社会と共有してゆく必要があるのか、確かめられた場だった。(3.11メモリアルネットワーク代表理事・武田)

シンポジウム全体を通じて、ブログでは紹介しきれない、たくさんの意義深いお話しをいただきました(詳しい内容は、ぜひ、アーカイブ映像をご覧ください)。
次年度以降も、テーマを定めて、各地の関係者と議論し発信する機会を作ってまいります。

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