【報告】「災害と教育 伝承実践交流会2025」開催

2025年8月30日(土)、「災害と教育 伝承実践交流会2025 災害に向き合う教育の未来~あのとき子どもだった教員‧世代が語る~」を仙台市で開催しました。本交流会にご登壇、ご協力いただいた皆さま、現地およびオンラインでご参加いただいた約120名の皆さまに感謝申し上げます。

※伝承実践交流会の様子はアーカイブ映像(YouTube)でご覧いただくことができます。

00:00:00
00:00:48 <開会あいさつ> 代表理事 武田真一
00:06:18 <報告>
00:06:18 佐藤 諒さん(岩手県立大槌高校教員)
00:24:16 佐々木 亮さん(大崎市立古川第四小学校教員)
00:38:00 高橋 輝良々さん(宮城教育大学4年生)
00:52:51 宍戸 結実さん(福島大学4年生)
01:09:45 廣澤 孝俊さん(石川県穴水町立穴水中学校校長)
01:36:20 <パネルディスカッション> 
02:46:25 <グループディスカッション>
03:07:11 <閉会挨拶> 

今回は、東日本大震災の発災当時はまだ子どもだった教員と大学生、そして能登半島地震の前から防災教育に取り組んできた中学校長にご登壇いただき、それぞれの震災体験と、その体験を防災教育はもちろん広く学びの場で共有して活かしていくことへの思いを語り合っていただきました。

<報告>「震災の体験と学んだことを伝えたい」その願いをどう共有するか

はじめに、発災当時はまだ子どもだった教員と大学生の方々にご登壇いただきました。

(左から)佐藤諒さん、佐々木亮さん、髙橋輝良々さん、宍戸結実さん

登壇者(発表順)
佐藤 諒さん(岩手県立大槌高校教員)
佐々木 亮さん(大崎市立古川第四小学校教員)
高橋 輝良々さん(宮城教育大学4年生)
宍戸 結実さん(福島大学4年生)

※発表資料(PDF)もご覧いただけます。


これからの災害教育について

佐藤 諒さん(岩手県立大槌高校教員)

発災当時16歳、高校1年生で父を亡くしました。
昨年赴任してきた大槌高校では1学年で震災学習を実施。現地訪問で大川小学校の語り部の方から話を聞き、感じたことを共有する中で、「実際に訪れると色んな感情がこみあげてくる」「何を伝えていくべきなのか、考えることができた」と体験を自分の中に落とし込む生徒たちの姿に、聞いて・見て終わりではなく、考えさせることの重要性を再認識できました。
災害に向き合う教育の未来とは、「震災学習の価値と在り方を伝えること」「日本全国が被災地という考え方を広めること」「伝承は変容することを理解し、次世代が自分ごととして捉え、紡いでいくこと」であると考えています。

佐藤諒さんの発表

佐藤諒さんの発表資料(PDF 1.9MB)


震災から14年,今教壇に立って思うこと
~震災を風化させずにどう語り継いでいくのか~

佐々木 亮さん(大崎市立古川第四小学校教員)

発災時は高校2年生、10km離れた自宅までパンクした自転車を引いて半日かけて帰りました。
今の勤務校のある区域では津波被害はなかったものの、川沿いのため地震の際には氾濫を想定しなければなりません。自分の被災体験を踏まえて、子どもたちには「地震が起こったら高いところへ逃げる」「家庭での災害時行動の確認や学校での避難訓練の徹底」「災害時の情報を整理し,むやみに動かないこと」を伝えています。学校としても災害時の避難訓練と引き渡し訓練の徹底に努めています。
「災害は人生の中でいつでも起きる」「自分の経験を伝えていく」「情報を整理して自分の安全を確保する」。震災を風化させないために、この3つを伝えて続けていきたいと考えています。

佐々木亮さんの発表

佐々木亮さんの発表資料(PDF 1.2MB)


「震災の体験と学んだことを伝えたい」
その願いをどう共有するか

高橋 輝良々さん(宮城教育大学4年生)

発災時は門脇小学校1年生でした。入学してすぐに「学校の先生になりたい」という夢を持ち、進学した宮城教育大学では311ゼミナール被災地実情班に所属する一方、石巻市震災遺構門脇小学校で語り部も務めています。
ゼミでは被災地に実際に赴いて現地の人の話を聞き、自分なりの経験に落とし込んで、その経験を多くの人に伝えることを目標に活動に励んでいます。語り部では、旧校舎で過ごした掛け替えのない思い出、震災当日どんな思いで避難したか、どんな恐怖を感じたのかを話しています。「家も家族も無事だった自分は被災者なのか?」という葛藤はありますが、命を守るためにみんなで伝え繋いでいかなければ、と思っています。

髙橋輝良々さんの発表

髙橋輝良々さんの発表資料(PDF 5.4MB)


こどもの記憶を語り継ぐ

宍戸 結実さん(福島大学4年生、福島大学語り部団体F.tellers)

発災時は小学校1年生。津波被害も建物崩壊もない地域に住んでいたので、語り部の時は「被害については語ることができません」と冒頭でお断りしています。
大学では地域実践学習として川内村と大熊町で小学生の学習支援に携わり、現在、語り部団体F.tellersを立ち上げて活動中です。
いま取り組んでいるのは「語りの内容を考えること」「知識のアップデートを常に行うこと」「相手の語りから学んでいくということ」の3つ。聞き手から「そういえば」という言葉を引き出せれば「語りの連鎖」が生まれ、伝承に幅をもたらします。
検証に基づいた「事実の教育」と悲惨さや過酷さを受け入れる「感情の継承」の2つが手を取り合えばリアリティのある防災学習につながります。「災害に向き合う教育の未来」はそこにあると考えています。

宍戸結実さんの発表

宍戸結実さんの発表資料(PDF 3MB)


続いて、能登半島地震以前から防災教育に取り組んできた穴水中学校校長・廣澤孝俊様から特別報告をいただきました。

<特別報告>
「未災地と被災地の防災教育 ~「つなぐ」から「生き方を考える」へ~」

廣澤 孝俊さん(石川県穴水町立穴水中学校校長)

「小木に津波が来たらどうなるんだろう?」
町内の小木中学校在任中に発生した東日本大震災の募金活動の際のある生徒のつぶやきがきっかけで、「地域から犠牲者を一人も出さない、を目標に頑張ろう」と防災活動を始めました。
1年目は、まず地域での聞き取り調査。ハザードマップを作成して全戸配布し、避難経路図とDVDも作りました。避難生活体験には住民300人が参加しました。2年目はもっと多くの参加を目指して保育園やお年寄り、さらには山手にある中学校とも交流し、海上保安庁との連携もあって3倍増の850人が参加しました。
能登半島が「未災地」だった頃に始めたこの活動は町内の他の中学校にも広まり、2・3年生が学んだことを1年生に伝える「3年間の防災活動のサイクル」が出来上がりました。中学生たちは、「この活動が『小木中学校の伝統』に そして「地域の文化」になるよう これからもがんばっていきます!」と言い続けました。
防災教育とは、正しく恐れることを学ぶことであり、自分の生き方を考える機会です。
穴水中学校では、未災地の防災教育はふるさと教育でもあるべきだという観点から、中学生の視点で「災害に強いまちづくり」を行い、街の魅力をどんどん発信し、文化祭の全校合唱で地域の皆さんに元気と勇気を与える「穴水中SINGプロジェクト」に取り組んでいます。

廣澤孝俊さんの発表

廣澤孝俊さんの発表資料(15MB)


<パネルディスカッション>

休憩を挟んで、パネルディスカッションが行われました。

佐藤 諒さん(大槌高校)
佐々木 亮さん(古川第四小学校)
髙橋 輝良々さん(宮城教育大学)
宍戸 結実さん(福島大学)
廣澤 孝俊さん(穴水中学校)
進行/ 武田 真一(3.11メモリアルネットワーク)

休憩を挟み、防災教育を巡ってパネルディスカッションが行われました。
ディスカッションのテーマは大きく3つ。「防災教育に取り組んできて、その手応えと難しさ、課題」「災害の経験や記憶のない世代にどうやって伝え継いでいくのか」「防災教育の教育的効果、災害対応を超えた意義」について、それぞれの体験を共有し、議論を交わしました。

パネルディスカッション

■手応え、むずかしさ
一年生の連絡帳で保護者の皆さんから「家でも子どもたちと防災の確認をしました」というコメントをいただくことがあり、すごくうれしい。(佐々木)

同じ職場の中でも先生によって防災教育についての意識の差があって、「いつやるんですか? 誰がやるんですか? どんなふうにやるんですか? どうやって続けますか?」とハードルが高くなる。それをクリアしていくのがものすごく難しい。(廣澤)

■どうやって伝え継いでいくのか
子どもたちを連れて現場を見せると、すごく関心を持って話を聞いてくれる。でも、そうした機会やきっかけは少ない。まず先生自身が現地に行き語り部の話を聞いたという体験を子どもたちに伝えること。いつも目の前にいる担任の先生がそういうところに行ってきたんだと知って、興味を持つ子どもが現れれば。(髙橋)

震災体験をあまり語りたがらない人でも、高校生が「何があったんですか?」と尋ねると「実はね」とちゃんと答えてくれることがある。次の世代が動くことによって、まだ聞き出せていなかったことが表に出る可能性がある。若い世代が引き出し、紡いでくれることに期待する。(佐藤)

福島県内ではすごく語り部活動が盛んで、中学高校の探究活動で語り部班があるくらい、若い世代に「語ろう」という気風が盛んです。たくさんの資料や写真にアクセスしやすい環境になっていて、すごく冷静に、客観的に、当時東日本大震災、原発事故は何だったのかということを学習できるのでニュートラルな語り継ぎができる。そこに新しい語り部の形、未来があるんじゃないかと可能性を感じています。(宍戸)

■教育的効果
防災教育とは、単に災害時に自分の身を守るということだけではなくて、災害に直面した時に自分の心を守る、そして他者を思いやる気持ちを芽生えさせ、それが地域とのつながりにも発展する、そういう教育ではないかと思います。(宍戸)

防災教育をすることで、災害の時に命を守るだけではなく、普通に当たり前に生きてる中でも自分の人生を大切にしていくことができるではないかなと思います。(髙橋)

防災教育をすることによって、「学校は安心できる場所なんだよ」ということを子どもたちや保護者に周知でき、日頃の関係づくりにも良い影響がある。(佐々木)

震災でそれまでの自分の中の価値観が全部壊されて、自分自身が大きく変わった。防災教育が生徒の中の何かを大きく揺るがして、当たり前と思っていたことが実は当たり前ではないことを理解させ、人格形成に関われると感じている。(佐藤)

「災害に向き合う教育」という言葉の意味、私は「自分の生き方を追求する教育の未来」だと思いました。
防災にとどまらずもう全部ひっくるめて。「これから自分はどう生きていくんだろうと子どもたち自身が考えていく。そういう未来を、私たちがこれから作っていかなくてはならないと思う。(廣澤)

パネルディスカッションの資料(PDF 2.3MB)


<グループディスカッション>

グループディスカッション

報告とパネルディスカッションを受けて、最後に参加者によるグループディスカッションが行われました。会場で5グループ、オンラインで1グループ。それぞれのグループに登壇者も参加して、「学校現場で伝え継ぐためになにができるか」について話し合い、全体で共有しました。

 


<アンケートご回答より>

・経験や記憶がない世代への災害伝承や防災学習についての考え方が広がった
・避難訓練の重要性が指摘されていたので、内容のアップデートを試みたい
・防災教育が「命を守ること」以外にも可能性があることを再認識できた。
・被災地視察研修で学んだことを自分の中に落とし込めた。まだまだ学びは継続したいと思った。

 


「災害と教育 伝承実践交流会」は、2023年に3回、2024年に1回開催され、今回が通算5回目です。
今回も参加者した方々の防災教育に対する関心は強く、主催者としても大きな手応えを感じた交流会でした。

ディスカッションでのご発言にもあったように、防災教育は災害対策を超えた教育的意義を秘めていますが、まだまだその意識が教育の世界に浸透しているとはいえません。この意識を広めていくためには地道な活動が必要です。今回の「災害と教育 伝承実践交流会」も、それに貢献する意図を込めて開催しました。

「“語りの連鎖“という言葉がご発言の中にありました。伝承実践交流会も、今日で終わってしまっては連鎖になりません。来年もまた開催したいと思います」

登壇・参加された方々からのメッセージを受けて、閉会のあいさつが締めくくられました。

 

「災害と教育 伝承実践交流会2025 災害に向き合う教育の未来~あのとき子どもだった教員‧世代が語る~」

日時 2025年8月30日 13:00~17:00
会場 TKP仙台青葉通カンファレンスセンター7C(オンラインでも配信)
主催 公益社団法人3.11メモリアルネットワーク
後援 石川県穴水町教育委員会 岩手県教育委員会 福島県教育委員会 宮城県教育委員会 仙台市教育委員会