【報告】能登半島地震被災地訪問

2025年7月18日(金)〜21日(月)の4日間、能登半島地震の被災地である石川県穴水町・珠洲市・輪島市を、スタッフ2名で訪問しました。今回の訪問は、地域で行われている防災教育の実践や、震災被災地の状況視察、地域文化の継承に触れることを目的としたものです。

穴水中学校における「より良い生き方を考える」防災教育

初日には、穴水中学校を訪問。

同校の廣澤校長先生には、8月30日に開催する「災害と教育 伝承実践交流会」へ、特別報告としてご登壇いただきます。今回はその依頼挨拶と打合せも兼ねて、同校で取り組まれている防災教育についてお話を伺いました。

穴水中学校では、震災後に計画された穴水町復興計画と学校教育を結び付けた「SINGプロジェクト」に取り組まれています。自分の命、家族の命、地域の人たちの命を守ることを考えていく「生き方科」、生徒の自治活動を大切にしながらアウトプットする力とコミュニケーション力を育てていく「生徒会活動」。この2つを軸として、「より良い生き方を考えていく」取り組みです。

特に印象的だったのは、「ふるさと教育」を土台としたアプローチです。防災教育を「命を守る技術」として教える前に、まず地域の歴史・文化・産業、そこに暮らす人々の営みを学ぶことを重視しているとのことです。「ふるさとを理解することが、地域と共に生きる姿勢を育む」との考えのもと、各教科と連携しながら取り組みを進めておられます。

中学生が復興の一端を担う主体的な学びの場を創出する。そのお話の中で、「復興を進める今だからこそ必要な学び」という校長先生の言葉が、非常に印象的でした。

「災害と教育 伝承実践交流会」は8月30日に開催いたします。ぜひご参加ください。


避難行動の実践と教訓 〜珠洲市下出地区避難の聞き取り〜

滞在中には、珠洲市三崎町下出地区の地震発生当時の避難行動について地域住民の方々にヒアリングを行いました。

私たちは、2011年当時の石巻市南浜地区での住民の避難行動の聞き取り調査と、それを可視化する「あの時プロジェクト」に取り組んでいます。能登半島地震被災地でも同様のプロジェクトを開始し、MEET門脇にも展示している一環で珠洲市下出地区の方々に当時の体験を聞かせていただきました。

下出地区では、東日本大震災以前より「何かあったら集会所へ」という合言葉のもと、津波を想定した避難訓練が繰り返されてきました。2024年の能登半島地震では、発災から約25分後に津波が到達しましたが、犠牲者ゼロで迅速に高台へ避難されたとのことです。

区長さんのお話からは、「東日本大震災の教訓があったからこそ、ためらいなく動けた」という言葉が印象的でした。また、自身は飯田町にいながら、ご家族が寺家地区の須々神社に参拝していたという方は、合流後にご家族から聞いたお話をお聞かせくださいました。
災害の記憶と日頃の備えが命を守る行動につながった実例として、大変貴重なお話を伺うことができました。


伝統保存と災害復旧が交差するまち・輪島市黒島地区の視察

輪島市では、黒島地区にあるゲストハウスに宿泊し、地域でインターン活動を行う大学生に現地案内をいただきました。

ゲストハウスを出発し、隆起した海岸沿い、発災直後の避難所になった寺社、公費解体され空き地になった場所などを、1時間ほどで巡りました。

発災当時、崩れた家屋の下敷きになった方を救助しようと、高台に見張りを配置し連携しながら活動した消防団の方々の話。隆起した海岸を波が引いた状況だと思い、とんでもない津波が来ると避難先で考えていたという住民の方の証言。

また、国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されている黒島地区の歴史、北前船の海運業で天領として発展した文化など、震災後の話以外もとてもわかりやすく説明してくださいました。

一人で町中を歩くだけでは決してわからない当時の状況を、ガイドから伝えてもらうということの価値を僕自身は強く感じました。

ガイドを終えてゲストハウスに戻ると、「自分が関係人口のロールモデルとなり、都市部の友人たちを能登に連れてくることで地域に関わる人を増やしたい」と語ってくれました。東日本大震災と能登半島地震という災害に共通する状況や課題をとらえながら、今後も協力できる支援活動を模索していきたいと思います。


地域文化の継承と象徴「飯田町燈篭山祭り」

最終日には、珠洲市飯田町で開催された「燈篭山祭り」を見学・記録しました。春日神社の例祭として知られるこの祭りは、昨年は震災の影響で縮小開催されており、今年は2年ぶりの全面開催となりました。

道路沿いの電柱よりも高くそびえる燈篭山が町内を巡行する様子は圧巻で、町民の熱意と誇りを強く感じることができました。人口減少や震災の影響で担い手が不足するなか、地域に関心を持つボランティアの参加も多く見られました。この日、住民の方々の祭りにかける思いと熱、文化と地域の「再生」を実感すすることができました。


今後に向けて

今回の訪問では、防災教育が単なる知識の伝達にとどまらず、「地域と共に生きる力」を育む営みであることを改めて実感しました。

今後も、災害の記憶の継承に寄与する伝承活動を継続し、現地での実践や声を全国の防災教育に活かしていけるよう努めてまいります。