2022年震災伝承活動調査(速報・第2弾)について

3.11メモリアルネットワークでは、東日本大震災の伝承活動の現状と課題の共有、防災・減災活動の活性化を目的に、毎年、調査を行っています。
「2022年東日本大震災伝承活動調査」第1弾として、2月に、震災学習プログラム・震災伝承施設の受入人数推移の速報を公開させていただきました。
詳しくはこちら >>> 「2022年震災伝承活動調査(速報)について」

第2弾では、さらに活動状況や見通し、問題意識等についてお伺いするアンケートを実施し、お忙しい時期にもかかわらず、3県24団体・21施設運営組織のご担当者様が協力してくださいました。
この記事では、その集計結果の速報を公開するとともに、アドバイザー・佐藤翔輔先生のコメントを掲載させていただきます。

第1弾調査では伝承施設への過去最多の来訪や、コロナ禍後の段階的な回復傾向を把握することができた一方で、第2弾調査では、対照的に、「継続する上での不安」の高まりが確認されました。発災から12年が経過し、震災を知らない世代も増える中、次世代に伝え継いでくれる伝承人材育成も大きな課題として浮かび上がっています。本調査が、災害から命を守る取り組みに関心を寄せ、活動継続を支えていただくきっかけの一つになれば幸いです。

 

高校生以下の受け入れ割合

第1弾調査で、コロナ以降、プログラム参加者/施設来館者全体に占める高校生以下の人数割合が増加傾向にあることが分かった。第2弾では、さらに、高校生以下の方の内訳について追加で質問を行った。「県外」「県内」「市町村内」のいずれから訪れているのか、人数を把握されている9団体/5施設の回答に、大人の人数(※)も合わせて整理した。
(※)各年の団体/施設の受入人数[第1弾回答] − 各年の高校生以下の合計受入人数[第2弾回答]
以下グラフは、高校生以下の内訳が把握されている回答のみの集計のため、
東北3県(25団体、35施設)の来訪者全体像については、速報第1弾を参照ください

 

  • 2019年は高校生以下の割合が、全体の12.5%だったが、2020年以降、20%台後半〜30%台前半となっている。(注:特に伝承施設は、個人来館者の年代別人数把握が難しく、団体予約分のみの人数となっているケースもある)
  • 2020年は、コロナの影響で大人の受入れ人数が大きく減少する中、高校生以下の受入れは堅調に推移したことから、全体に占める割合が倍増した。
  • 2021年、22年は、大人・高校生以下ともに人数が増加した。大人の方が、高校生以下よりも回復幅が大きく、22年は高校生以下の割合は前年比-5.8%となった。
「コロナ前からの特徴的な変化」※自由記述

団体・施設ごとに受け入れ状況は異なるので、一概には言えないが、コロナ前と比較した時の変化について、次のようなコメントをいただいた。

  • [プログラム] 県内(市外)の各学校による修学旅行の代替としての利用が増加した
  • [プログラム] 岩手県内・東北近県からの来訪校が増加
  • [プログラム] 県外からの中高生がかなり減少に転じている。県内及び市内小中高生が主であり小規模人数の受け入れが多い
  • [プログラム] 時期が重なる傾向があり断らざるえない学校もある
  • [プログラム] 2022年度、コロナがほぼ緩和されたことから、躊躇なく「現場を見たい」という要望が高くなり、オンラインの機会が激減した
  • [施設] 県内からの来訪者が増えた。東北6県からも増えている。関東圏からは激減
  • [施設] 県外からの修学旅行が増えた
  • [施設] 地域・学年毎の集計はとっていないが、令和3年度に比べて小中学生の団体での来館が3倍以上に多くなった
  • [施設] コロナ前(2019年)は民選委員など地域の団体の受け入れが多くみられたが、コロナ後は修学旅行をはじめとする教育旅行の受け入れが急増した。教育旅行は岩手県内の学校の受け入れが最も多く、そのほか南海トラフの被害想定地域の学校からの問い合わせが増加傾向にある

オンライン伝承活動の実施状況

コロナ以降に広まった、オンラインによる伝承活動について、現時点での取り組み状況と実施している内容を質問した。

 

  • 2022年調査では、震災学習プログラムを実施している24団体のうち86%、震災伝承施設を運営している21組織のうち52%が、オンライン伝承活動を実施していることがわかった。
  • 2021年調査(注:25団体・29組織の回答を集計したもの。回答団体・組織は、完全には一致しない)では、それぞれ68%・45%がオンライン伝承活動を実施したという結果になっており、2022年の実施割合はそれらよりも増加傾向にある。
  • ただし、2022年のオンラインの受入人数は、前年比減となっており(第1弾調査より)、オンラインの取り組み浸透と受入人数の増加はイコールではない。
「オンラインの特徴的な活用事例」※自由記述

各団体・施設で、オンラインで学びを深めてもらうための様々な工夫が行われている。

  • [プログラム] 被災地、女川からのライブ配信(リアル感の伝達が出来た)
  • [プログラム] 原子力災害の帰還困難区域、中間貯蔵施設内からスマホを使って配信するため、立ち入りができない子どもたちにも現場の実情を伝えられる(屋内で他スタッフがスライド送り)
  • [施設] 語り部さんから提供いただいた被災展示物の前で、ご本人の語りを配信
  • [施設] zoomを活用して、施設内を職員が案内し、質問や補足事項などをその場で受け答えした
  • [施設] 防災ワークショップを実施するにあたり、ブレイクアウトルームを活用しグループワークなどを取り入れオンラインでも深い学びが提供できるように工夫を行っている

伝承活動を継続する上での不安感

  • 活動を継続する上で不安を感じているかどうかについて質問したところ、「不安がある」(=「大いに不安がある」「多少不安がある」「不安がある」の合計)と回答したのは、震災学習プログラムを実施している24団体中23団体(96%)、震災伝承施設を運営している21組織中15組織(71%)だった。
  • コロナで急速に不安感が高まった2020年、21年調査(注:回答団体・組織は、完全には一致しない)結果と比較し、2022年は「不安がある」と回答する団体・組織の割合が増加した。
「不安感が高まった理由」※追加ヒアリング

経年比較で、不安感の上昇が確認された団体・施設運営組織に対し、追加で電話ヒアリングを行った。

  • [プログラム] コロナがあけて、東北6県からの予約件数が減っている。コロナで激減した企業研修の回復が見込めない
  • [プログラム] 自分たちでやっていくしかない状況で、もともと不安がないわけではなかった
  • [プログラム] 雇用が不安定な状況で、後継者育成ができない。若い人が担っていくためには、きちんと給料が出て生活できる必要がある
  • [プログラム] 活動できる人数が少なく、若い方も入ってもらったが、忙しそう
  • [施設] 去年の今頃と比べて予約が少なくなっており、コロナ後、修学旅行が減っていくことを懸念している
  • [施設] 除草などの維持管理が大変。施設として伝承の企画予算がつかない
  • [施設] 語り部ガイド育成が課題。高齢化が進み、若い人があまりいないことに不安を感じる
  • [施設] 新しい方も入ってくれて希望もあるが、やはり後継者が課題

伝承人材育成の問題意識・必要だと思うこと

前の質問でも、不安の理由として複数の団体が言及されていた「伝承人材育成」に関連し、震災伝承に取り組む団体・組織が日頃感じている問題意識、また、その解決に向けて必要だと感じていることについて質問をした。

 

「伝承人材育成に関する問題意識」

選択式で問題意識について質問をしたところ、特に次の項目の回答が多かった(回答団体/組織の半数以上が選択したもの)。

  • 高齢化する伝承人材の後継者がいない/少ない。
  • 新たな伝承人材(30代以上・発災当時19歳以上)の参入がない/少ない
  • 新たな伝承人材(20代以下・発災当時18歳以下)の参入がない/少ない
  • 職業としての伝承人材の地位(立場、収入)が確立していない
  • 伝承人材が少ない

このほか、「伝承人材の学習、スキルアップの機会がない/少ない」「『震災伝承』や『語り部』の敷居が高い」「兼業での伝承活動が難しい」「伝承人材をサポートする人材がいない/少ない」「社会全体で伝承に関心のない人が多い」と続き、「人材面での悩みはない」と回答した団体・組織は0だった。
また、「その他」の回答として、「収益減に伴う継続育成の難しさ」「スキルアップに答えがない」「活躍機会の確保の不安」「避難先との距離の問題(福島)」などが挙げられた。

 

伝承活動の継続・新たな担い手の参画に必要なこと



 

「その他」の回答では「継続:未来に向けた継続が見通せる制度やサポート」「新規:伝承活動の見学、モニター参加など現場の温度感を知る機会」などが挙げられた。

一方で、「何が必要なことなのかは選択で済ませられるものではない」「内部のサポートだけではどうしようもできない場合もある」というコメントの通り、構造的、複合的な要素があるため、個別の取り組みだけで解決できるわけではない。

 

「伝承人材育成の課題についての相談」※自由記述
  • [プログラム] 私たちの団体は、現状、私たちが他界すれば直接内容を話すことが出来る後継者は存在しない状況であり、受け継ぐ方法を考えなければならない
  • [プログラム] 伝承指導者が周りにいないのと、資料作成なども独自で行っている現状だが、トークを含めた指導を求めている。人材発掘、若い人たちに向けたきっかけを作る方法を教えてほしい
  • [プログラム] 伝承の当事者と、制度を整備できる行政が、課題に対して協働で検討する場の形成
  • [プログラム] 原子力災害による震災遺構を保存したいと考えており、岩手・宮城・福島の津波被災による震災遺構や、広島などの戦争の遺構がのこった経緯を、「担当者」だけでなく「当時のこすために尽力された方」に教えてほしい

伝承活動の財源

震災学習プログラムを実施している24団体、震災伝承施設を運営している21組織へ、震災伝承活動の「現在の財源」と「今後期待する財源」、また「人件費」の詳細な財源について質問をした(複数回答)。


  • 震災学習プログラムを実施している24団体中20団体(83%)が「参加者からの対価収入(プログラム参加料金、講演の謝金など)」を伝承活動の財源に充てている。また、震災伝承施設を運営している21組織中14組織(67%)が「市町村の財源」、8組織(38%)が「参加者からの対価収入(入館料、施設での案内料金など)」を伝承活動の財源に充てている。
  • 《現在は使用している団体・組織は少ないが、今後の期待が大きい財源》としては、「国(復興庁)の財源」「国(復興庁以外)の財源」「県の財源」「民間企業からの支援や寄付」(+震災学習プログラムは「市町村の財源」も)が挙げられる。
  • 人件費は、事業収入、行政の予算や補助金、助成金、寄付金など、施設・組織によって様々な財源から支出されている。「人件費の支出はない」(伝承の担い手は無償での取り組み)とする団体・施設も、一定数確認された。

相談・好事例・メッセージ

アンケートの最後に、関係者へ相談したいことや共有したい好事例・メッセージについて伺った。

「今後活動を継続する上で、他の伝承関係者に相談したいこと」※自由記述
  • [プログラム] 互いの連携性
  • [プログラム] 他の団体とのコミュニケーションや、伝承プログラム開催の案内をもっと知れるようになると良い
  • [プログラム] 研修以外にもガイド育成・スキルアップに効果的な事例があれば教えてほしい
  • [プログラム] 伝承活動に使える施設がないため、屋外だと天候に左右され、講話、意見交換などに支障をきたしているという問題がある
  • [施設] 施設同士の連携について
  • [施設] 個人への業務の依存度が高く、また勤務日が不規則になるため職員個人の健康状態に不安が出る。他施設での勤務シフトの管理などどのように行っているか、参考までにお聞きしたい
  • [施設] 後世への伝承を掲げる復興庁や行政と、伝承活動の今後の継続性について相談したい
  • [施設] 周辺の施設と、周遊プログラムの広報・営業や、連携受け入れによる相乗効果について相談したい
  • [施設] 他の伝承施設や伝承団体と、施設での解説員の役割と、施設の外での語り部などの伝承活動の役割との機能分担や今後の在り方について相談したい
  • [施設] 東北の伝承施設全体で学校から訪問が増加傾向にあるようだが、子ども達や若い世代に向けた展示は大人向けと異なったアプローチが求められそうなので、施設それぞれの工夫の共有や特徴分けについて、相談したい
「他の伝承関係者に共有したい好事例、メッセージ等」※自由記述
  • [プログラム] 語り継ぐことは未来の命を救うこと
  • [プログラム] 独自の写真集を制作した
  • [プログラム] 発災直後のボランティアツアーがすぐに収束した実績から判断して、旅行会社にとっても被災地の担い手にとっても、被災現場へのツアー対価収入だけでの”自立”や継続が困難であることは明白だが、オンライン語り部は収益性が高く潜在力がある
  • [プログラム] 語り部の方々の高齢化に伴う後継者不足が課題となっている団体が多いと思うが、現在の方々で現状をなんとか継続させることが大切であり、その活動を周知させることで若い世代にも伝承活動の重要性が浸透し、新しい人材が加わり次につながることになると思う。本市もあきらめかけていたところに、新規登録者が加わり組織化が実現した。しかしながら、実質的な活動は60代以上の方々によるものなので、長い目で後継者育成を行っていこうという意識でいる

アドバイザー・佐藤翔輔准教授(東北大学 災害科学国際研究所)より

本調査では,コロナ禍による人の行き来に対する制限・自粛も緩和の方向に向かってきおり,その足も被災地に多く向いていただいていることがよく分かります.東日本大震災が起きてから10年以上経過していても,全国から高い関心をもっていただいているとも言えます.これを,コロナ禍収束のいっときの需要拡大とならないように,震災学習プログラムや震災伝承施設での情報発信を磨きながら,継続的に利用いただけるように取り組んでいく必要があります.3.11メモリアルネットワークでは,災害からの未来のいのちを守り,社会のレジリエンスを高めるために,関係団体・施設とともに連携して,持続可能な震災伝承を展開していきます.

調査概要

【対象】岩手・宮城・福島の3県で震災伝承活動に取り組む団体、施設
【期間】2023年3月2日〜26日
【方法】メールで依頼・回答
【実施主体】公益社団法人3.11メモリアルネットワーク
【アドバイザー】東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授
【一部補助】令和4年度復興庁被災者支援コーディネート事業
※この記事は、2022年調査 [第2弾(アンケート調査)]の速報です。

調査協力

震災学習プログラム:24団体(岩手5/宮城16/福島3)

一般社団法人宮古観光文化交流協会、三陸鉄道株式会社、一般社団法人おらが大槌夢広場、三陸ひとつなぎ自然学校、一般社団法人陸前高田市観光物産協会、けせんぬま震災伝承ネットワーク、一般社団法人南三陸町観光協会、三陸復興観光コンシェルジェセンター、南三陸ホテル観洋、一般社団法人女川町観光協会、一般社団法人健太いのちの教室、一般社団法人雄勝花物語、大川伝承の会、一般社団法人石巻観光協会(石巻観光ボランティア協会)、公益社団法人3.11メモリアルネットワーク、七郷市民センター(七郷語り継ぎボランティア「未来へ―郷浜」)、一般社団法人ふらむ名取、一般社団法人閖上の記憶、岩沼市千年希望の丘交流センター、亘理町観光協会(震災語り部の会ワッタリ)、やまもと語りべの会、一般社団法人大熊未来塾、NPO法人富岡町3・11を語る会、いわき震災伝承みらい館(いわき語り部の会)

 
震災伝承施設:運営21組織(岩手4/宮城13/福島4)
※複数の施設を運営している組織については、回答は1件としています。

大槌町文化交流センター、いのちをつなぐ未来館、大船渡市防災学習館、東日本大震災津波伝承館、シャークミュージアム、唐桑半島ビジターセンター・津波体験館、南三陸311メモリアル、女川町まちなか交流館、南浜つなぐ館、震災伝承交流施設 MEET門脇、石巻市震災遺構 大川小学校、石巻市震災遺構 門脇小学校、みやぎ東日本大震災津波伝承館、せんだい3.11メモリアル交流館、震災遺構 仙台市立荒浜小学校、名取市震災復興伝承館、津波復興祈念資料館 閖上の記憶、岩沼市千年希望の丘交流センター、山元町震災遺構 中浜小学校、山元町防災拠点・山下地域交流センター、震災遺構 浪江町立請戸小学校、東京電力廃炉資料館、いわき震災伝承みらい館、原子力災害考証館furusato