2024年震災伝承調査第1弾(来訪者推移)

3.11メモリアルネットワークは、2017年より毎年、東日本大震災の伝承活動の現状と課題の共有、防災・減災活動の活性化を目的として調査を行っており、この度、2024年12月までの来訪者数実績について、報告させていただきます。

岩手・宮城・福島の3県で伝承に取り組む30団体・38施設(閉館施設含む)の皆さまには、調査にご協力をいただき感謝申し上げます。

コロナ禍以降、震災学習プログラム、震災伝承施設への来訪者数は2023年まで毎年回復してきてきましたが、2024年に減少に転じており、このまま右肩下がりに落ちてゆく危惧も感じられ、大きな転機を迎えたことを痛感しています。

東日本大震災発災から、もうすぐ14年です。

復興構想原則として「大震災の記録を永遠に残し、教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する」と掲げられてからまだ14年も経過しておらず、15年、30年、100年と伝承活動を継続してゆく必要があります。

これまでの伝承活動でも、「継続性の不安」や人材、財源の不足が明らかになっており、災害から命を守る確かな力を持った「語り」と、各地の「施設」の両方が、持続可能なものとなる必要があります。

2024年の減少転化は、「今まで通り」の語り部や担当者に頼った伝承では難しく、抜本的な取り組みの必要性を示唆しているものと捉えています。東日本大震災を経験した日本社会だからこそ、命を守る震災伝承の取組みが定着するよう、本調査が少しでもお役に立てれば幸いです。

調査概要

【対象】岩手・宮城・福島の3県で震災伝承活動に取り組む団体、施設
【期間】2025年1月6日〜2月1日
【方法】メールで依頼・回答
【実施主体】公益社団法人3.11メモリアルネットワーク
【アドバイザー】東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授

調査協力

震災学習プログラム:30団体(岩手7/宮城19/福島4)
(以下、
「伝承団体」と略称します)

一般社団法人宮古観光文化交流協会、三陸鉄道株式会社、一般社団法人おらが大槌夢広場、いのちをつなぐ未来館、一般社団法人陸前高田市観光物産協会、一般社団法人トナリノ、一般社団法人陸前高田被災地語り部くぎこ屋、けせんぬま震災伝承ネットワーク、一般社団法人気仙沼観光協会、一般社団法人南三陸町観光協会、三陸復興観光コンシェルジェセンター、南三陸ホテル観洋、一般社団法人女川町観光協会、一般社団法人健太いのちの教室、一般社団法人雄勝花物語、大川伝承の会、一般社団法人石巻観光協会(石巻観光ボランティア協会)、公益社団法人3.11メモリアルネットワーク、SAY’S東松島、奥松島観光ボランティアの会、七郷市民センター(七郷語り継ぎボランティア「未来へ―郷浜」)、一般社団法人ふらむ名取、一般社団法人閖上の記憶、岩沼市千年希望の丘交流センター、亘理町観光協会(震災語り部の会ワッタリ)、やまもと語りべの会、相馬市商工観光課、一般社団法人大熊未来塾、NPO法人富岡町3・11を語る会、いわき震災伝承みらい館(いわき語り部の会)

震災伝承施設:38施設(岩手6/宮城24/福島8)
(以下、「伝承施設」と略称します)

大槌町文化交流センター、いのちをつなぐ未来館、大船渡市防災学習館、陸前高田市立博物館、311仮設住宅体験館、東日本大震災津波伝承館、気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館、リアス・アーク美術館、唐桑半島津波体験館(閉館)、シャークミュージアム(2024年よりサメ展示に特化)、南三陸ポータルセンター(閉館)、南三陸311メモリアル、女川町まちなか交流館、石巻市震災遺構 大川小学校、石巻市震災遺構 門脇小学校、石巻市復興まちづくり情報交流館(閉館)、絆の駅 石巻ニューゼ、つなぐ館(閉館)、南浜つなぐ館、震災伝承交流施設 MEET門脇、みやぎ東日本大震災津波伝承館、東松島市震災復興伝承館、KIBOTCHA、せんだい3.11メモリアル交流館、震災遺構 仙台市立荒浜小学校、名取市震災復興伝承館、津波復興祈念資料館 閖上の記憶、千年希望の丘交流センター、山元町震災遺構 中浜小学校、山元町防災拠点・山下地域交流センター、相馬市伝承鎮魂祈念館、双葉町ふれあい広場(閉館)、震災遺構 浪江町立請戸小学校、東日本大震災・原子力災害伝承館、東京電力廃炉資料館、ふたばいんふぉ(閉館)、いわき震災伝承みらい館、コミュタン福島

震災学習プログラム、伝承施設の全体推移

2024年東日本大震災伝承調査_伝承団体、施設来訪者

  • 伝承団体、伝承施設共に、2020年のコロナ禍での減少以降増加傾向にあったが、2024年より来訪数が減少に転じている
  • 伝承団体への来訪数は2013年がピークで、その後は伝承施設の来訪数増加に連動して増加することがないまま、2024年に減少した
  • 伝承施設は、発災10年を目途に次々と整備された施設数と共に来訪数が増加してきたが、2024年から減少に嘆じた。

震災学習プログラム 年別受入人数推移(30団体)

2024年東日本大震災伝承調査_伝承団体推移

  • 2024年の年間震災学習プログラム参加者数(30団体の現地参加者の合計)は、175,346名。
  • 過去の(2013年、2014年の)レベルまでの回復がないまま、減少に転じた。
  • 昨年比で来訪数増加は14団体、減少は16団体であった。

震災伝承施設 年別受入人数推移(38施設)

 

2024年東日本大震災伝承調査_伝承施設推移

  • 2024年の年間震災伝承施設来館者数(過去閉館含む38施設の合計)は、1,510,068名。
  • 伝承施設全体として150万名を超え過去最多の受入人数となった2023年から、2024年は減少に転じた。
  • 昨年比で来訪数増加は12施設、減少は20施設、閉館もしくは伝承展示をなくした施設が6であった。

高校生以下の割合について

2024年東日本大震災伝承調査_高校生以下

  • 2021年~2024年まで、高校生以下等の数値がそろっている伝承団体(17)、伝承施設(10)の集計で、伝承団体の方が、高校生以下(教育旅行の団体)の受入割合が高かった。
  • 伝承団体は、コロナ禍による集中で2021年は高校生以下の割合が64%に達したが2023年に減少し、2024年も高校生の受入数はほぼ横ばいとなった。
  • 伝承施設も、2021年には24%だった高校生以下の割合が、2023、2024年には少し低下し、19%台で推移した。

オンライン語り部の実施について

2024年東日本大震災伝承調査_オンライン

  • 伝承団体は、2021年に15団体がオンラインに取り組み、3.5万人に向けて開催されたが、その後、少しずつ減少しながらも継続し、2024年は14団体が1.7万人に向けて実施した。
  • 伝承施設は、2021年に3施設が2500人に向けてオンラインを実施し、2023年には6施設が実施していたが、2024年には3施設に減少しながらも、過去最多の5300人が参加した。

岩手・宮城・福島の県別比較

2024年東日本大震災伝承調査_伝承団体県別比較

2024年東日本大震災伝承調査_伝承施設県別比較

  • 伝承団体、伝承施設共に、岩手・宮城は減少し、福島は増加した。全体が減少傾向にある中でも、県ごとの施策や予算の違い(2023年震災伝承活動調査報告書冊子参照)が、今後の震災伝承活動の活性化や持続可能性に影響がある可能性が示唆された。

増減要因について

2024年東日本大震災伝承調査_増減要因

  • 2024年調査より、現場の調査回答者が感じる「増加要因」、「減少要因」の設問を設けた。
  • 「震災(伝承)に対する関心」は、増加要因としても、減少要因としても選択されていたが、減少した場合の方が多く、全ての回答の中で最多を占めた。
  • 全体的に「プログラムの内容」、「展示・案内の内容」への回答が非常に少なく、伝承団体が増加した場合にのみ、この選択肢が選ばれていることは特徴的であった。
  • 「地域全体の訪問者数の増減」も「震災(伝承)に対する関心」に近い回答傾向で合ったが、伝承団体が減少要因として挙げる例が多かった。
  • 以下に、震災学習プログラム、震災伝承施設のそれぞれについて、増加、減少の要因エピソードの回答を記載する。
伝承団体(増加エピソード)
  • コロナ禍で修学旅行の受入が増加したので各学校様の防災意識も高まっていきリピートしてくださる事を期待していたがコロナ禍が緩和するとコロナ禍以前と変わらないコースに戻る学校様が多かった。
  • 修学旅行がコロナ前の訪問地に戻ったことで学校の来館者数は減少したが、校外学習で来るなど大幅な減少にならなかった。一方でリピーター客が定着してきたことなどにより全体的にプログラムの受入件数と人数は増加した。
  • 当センターが毎年年13回程度開催している自助共助プログラムの参加者に繋がるきっかけは学生自らがこのプログラム後に自分事となった学生が主体的に伝承に関わっております。
  • 関東圏の中学・高校からSGDSに関する学びの要望が多かった。本団体の担当者は災害に強いまちづくりを目指した復興案の立案に参画した。また被災後の復興事業を自ら実施している。以上の経験と.元教員の強みを生かした探求的なプログラムが評価されている。
  • 大型バスでの団体のみならず、少人数での個人的参加が増加してきている。
  • 新型コロナウイルス感染症の取り扱いが5類に移行後、来訪の人数が以前の水準に戻ってきている為と思われる。
  • 2024年は高校生以下の参加者数が全体のほぼ半数となった。語り部ガイドと防災学習用DVD視聴及びワークシート(クイズ等)の組合せが功を奏して、リピーターの学校が増加。
  • 継続により、活動が多くの人に認知され始めた。参加者からの要望により福島県からの依頼も増えている。観光関係などの他団体との連携。インバウンド対応。
  • 伝承館など多く依頼が増えている傾向があります。
  • 東北に特化した旅行会社(みちのりトラベル東北)のお客様がほとんどです。昨年夏頃から観光物産協会をはじめとする、教育旅行をターゲットにした事業者との情報交換会に参加することになり、10月に大阪と名古屋で営業まわりをし、今年2件(合計200名弱)の申込みを獲得しました。
  • 岩手県内の学校について受入人数は減少していることに対し、県外の学校かつ大型団体が増えていることから、一件あたりの人数が増加している。
伝承団体(減少エピソード)
  • 県内の修学旅行の行先変更、一般の団体、エージェントの予約が減少。
  • 修学旅行(コース選択制)で毎年震災学習列車にご乗車いただいている高校が、数年前までは120名程度(3両編成)で運行していたのが、今年度は60名程度にまで減少しました。
  • 市内の語り部の要望は気仙沼市東日本大震災・伝承館への誘導をしております。
  • トータル人数が減少したが、個人のお客様に関しては例年以上にご利用頂いていた。ただ繫忙月の貸切団体の予約、利用が減少したことが結果として数字にも現れた。
  • 教育旅行としての受入れの人数が限られているため(宿泊施設も含め)首都圏の大きな学校様のご要望に添えるのが厳しいので、今後も近隣市町村の協力がないと難しいと思いますし、旅行会社様との調整を行うマネジメントを行う団体が必須だと感じます。
  • 民間団体連携により複数バス受入れのリピートや新規で増加。近隣設の連携・紹介欠如による減少。
  • プログラム内容や発信方法、広報・集客の連携など、抜本的な対策が必要。
  • 来ていただいた皆さんに丁寧に対応と、ニーズに応じて柔軟にお時間の調整などのご相談には応じさせていただいております。
  • 伝承と防災減災を学び命をつないでいく、要望が増えてオプション案内が増えた。他団体とコラボ企画を行った。語り部と防災ゲームや街歩きで違いで変化を実感。震災を知らない世代へ要望が増加。
  • 消防庁依頼、県外語り部派遣事業依頼等、県外への出張講話が増えている。
  • 現実味のある震災遺構が片付き、見られなくなった。写真で説明するなら、逆にこちらに来て欲しいと講演になった。
  • 伝承館ができて、展示が見たら話をきかなくていい、となってきた。オンラインや写真展などやり方を変えて発信している。
  • 市内の語り部の要望は気仙沼市東日本大震災・伝承館への誘導をしております。
  • 2024年、プログラム紹介に特化したパンフレットを作成しました。旅行会社、学校の先生、来館者などに随時配布しています。
  • 復興視察の有料化が件数減少の要因。観光経済効果の主要素である宿泊へのマイナス影響はなく、限られた人材で運営する復興視察で観光施策としての持続可能性がより高まった。
伝承施設(増加エピソード)
  • コロナの5類以降後における、交流人口の増加及び元旦に発生した能登半島地震等による防災意識の高揚が来館者数の増加に繋がったと考える。更にイベント等を通じて営業・情報発信を行った効果が現れたものと思料する。オンシーズン、コロナ明けの影響が大と思われます。
    また、宿泊についてもBBQ 付きプランや屋外宿泊のグランピングも要因であったと思われます。オフシーズンはなないろの芸術祭(フェスを含む)やリアル宝探し等で集客を図りました。
  • 新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行による影響。
伝承施設(減少エピソード)
  • 一組当たり大人数となる修学旅行がコロナ前の行程に戻ったため、来館者の減少の要因の一つとなっている。
  • 2023年はコロナ5類移行、NYタイムズ紙による盛岡市、全国植樹祭の影響等で来館者が増加したが、2024年はその影響が減少したためと考えている。
  • 来館者数は前年と比較すると減少したが,要因としては,修学旅行などの団体の数が減少したことが考えられる。
  • 伝承施設は一般の方にとって1度行けば十分という認識が強く、オープン直後の目新しさから来館される層が尽きた印象。今後はリピートが望める学校団体への営業を強化。
  • 開館から3年が経過し、初訪問者が落ち着いたことによる減少が影響していると思料。
  • 一方で、教育旅行セミナーでのPRなど教育旅行誘致活動等が、県外からの団体客の増加に繋がっていると感じている。
  • 防災研修ニーズ等に応えきれず、発信も連携も不足し、減少。有料であるだけで帰る方もいて、無料施設による悪影響。
  • 学生増加が今後の希望だが、周辺施設との連携が必須。
  • 通年では減少しているが、ほぼ昨年同数なのは3月の追悼行事の来訪増加によるもので、祈念公園としての追悼行事への注力が求められる。
  • 全体の入館者数は前年を下回ったが、高校生以下の人数は過去5年間で一番多い。震災学習プログラムに参加いただいた学校のリピート率が高いことに起因している。
  • 長年、学生たちを案内してくれていた首都圏や関西圏の大学教授が相次いで退官したことも減少の要因にあげられる。
  • 旅行会社主催の募集ツアーの申込みが増えているが、語り部だけの申込みが多い印象。来館につなげていきたい。
  • 「その他」3月に閉館したため。

この度の来訪者数調査から、東日本大震災の伝承活動は2024年に転機を迎えたことが示されています。3.11メモリアルネットワ-クとしても、引き続き全体傾向の把握に努めるとともに、震災伝承活動に関わる皆さまに少しでもお役に立てるよう、サポートを継続してまいります。

メディア掲載

調査結果をメディア掲載いただきました!感謝申し上げます。

2025年2月5日 FNNプライムオンライン(仙台放送)
震災伝承施設の来訪者数5万人減 「発信も連携も不足」 支援団体は仕組み見直しが必要と指摘〈宮城〉

2025年2月6日 朝日新聞
震災展示施設、来館者減少に転じる 24年3.4%減、関心の薄れ?